外国裁判所の判決に基いて執行判決をすることができますか?

日本国の不法行為に基づく損害賠償制度の目的とは?

カリフォルニア州民法典の定める懲罰的損害賠償(以下、単に「懲罰的損害賠償」という。)の制度は、悪性の強い行為をした加害者に対し、実際に生じた損害の賠償に加えて、さらに賠償金の支払を命ずることにより、加害者に制裁を加え、かつ、将来における同様の行為を抑止しようとするものであることがよく知られています。

では、日本国の不法行為に基づく損害賠償制度は、どうでしょうか。

「外国裁判所の判決のうち、補償的損害賠償等に加えて、見せしめと制裁のために懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分については、執行判決をすることができない」と判示した判例を紹介します。

いわゆる懲罰的損害賠償を命じた外国裁判所の判決について執行判決をすることの可否が争われました。

 平成9年07月11日最高裁判所第二小法廷判決  平成5(オ)1762 民集 第51巻6号2573頁

本件は、上告人がアメリカ合衆国のカリフォルニア州裁判所の判決についての執行判決を求める訴えです。

カリフォルニア州民法典には、契約に起因しない義務の違反を理由とする訴訟において、被告に欺罔行為などがあったとされた場合、原告は、実際に生じた損害の賠償に加えて、見せしめと被告に対する制裁のための損害賠償を受けることができる旨の懲罰的損害賠償に関する規定(3294条)が置かれています。

カリフォルニア州上位裁判所は、昭和57年(1982年)5月19日、上告人と被上告会社の子会社である同州法人Dとの間の賃貸借契約締結について被上告人らが上告人に対して欺罔行為を行ったことを理由として、被上告人らに対し、補償的損害賠償として42万5,251ドル及び訴訟費用として4万104ドル71セントを支払うよう命ずるとともに、被上告会社に対し、これに加えて、右規定に基づく懲罰的損害賠償として112万5,000ドルを上告人に支払うよう命ずる判決(以下「本件外国判決」という。)を言い渡しました。

上告人及び被上告人らは、本件外国判決に対してカリフォルニア州控訴裁判所に控訴したが、同裁判所は、昭和62年(1987年)5月12日、各控訴を棄却する旨の判決を言い渡し、本件外国判決が確定しました。

執行判決を求める訴えにおいては、外国裁判所の判決が旧民訴法200条各号(現民訴法118条)に掲げる条件を具備するかどうかが審理されます(民事執行法24条3項)。

民事執行法

(外国裁判所の判決の執行判決)
第二十四条  外国裁判所の判決についての執行判決を求める訴えは、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄し、この普通裁判籍がないときは、請求の目的又は差し押さえることができる債務者の財産の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
2  執行判決は、裁判の当否を調査しないでしなければならない。
3  第一項の訴えは、外国裁判所の判決が、確定したことが証明されないとき、又は民事訴訟法第百十八条各号に掲げる要件を具備しないときは、却下しなければならない。
4  執行判決においては、外国裁判所の判決による強制執行を許す旨を宣言しなければならない。

民事訴訟法

(外国裁判所の確定判決の効力)
第百十八条  外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。
一  法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
二  敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
三  判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。
四  相互の保証があること。

旧民訴法200条3号(現民訴法118条3号)は、外国裁判所の判決が我が国における公の秩序又は善良の風俗に反しないことを条件としています。では、その外国判決は右法条にいう公の秩序に反するのでしょうか。

結論:

本件外国判決のうち、補償的損害賠償及び訴訟費用に加えて、見せしめと制裁のために被上告会社に対し懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分は、我が国の公の秩序に反するから、その効力を有しないものとしなければならない。 平成9年07月11日最高裁判所第二小法廷判決  平成5(オ)1762 民集 第51巻6号2573頁

理由:

 我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり(最高裁昭和六三年(オ)第一七四九号平成五年三月二四日大法廷判決・民集四七巻四号三〇三九頁参照)、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止、すなわち一般予防を目的とするものではない。もっとも、加害者に対して損害賠償義務を課することによって、結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあるとしても、それは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせたことの反射的、副次的な効果にすぎず、加害者に対する制裁及び一般予防を本来的な目的とする懲罰的損害賠償の制度とは本質的に異なるというべきである。我が国においては・加害者に対して制裁を科し、将来の同様の行為を抑止することは、刑事上又は行政上の制裁にゆだねられているのである。そうしてみると、不法行為の当事者間において、被害者が加害者から、実際に生じた損害の賠償に加えて、制裁及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは、右に見た我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものであると認められる。

 平成9年07月11日最高裁判所第二小法廷判決  平成5(オ)1762 民集 第51巻6号2573頁

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