キャラクターは漫画を離れて別個の著作物といえるのでしょうか?

事件の概要

漫画「POPEYE」の著作権を有する原告(被控訴人・被上告人)が、ポパイの図柄等を付したネクタイを販売している被告(控訴人・上告人)に対して、その差止を請求した事件(いわゆるポパイネクタイ事件)を見ていきましょう。

第一審は、キャラクターは著作物と認めることはできないが、漫画の著作権を侵害するものとして販売の差止を認容しました。

原審は、第一回作品において主人公ポパイの特徴を備えた絵が表示されていても、後続作品のうちいまだ著作権の保護期間が満了していない漫画の著作権に基づいて控訴人の本件図柄一の使用の差止めを求めることは許されると判断して、差止を認容しました。

原審の判決に対して控訴人が上告しました。さて、最高裁はいかに判示したのでしょうか?

判事事項

一 漫画の登場人物のいわゆるキャラクターの著作物性
二 二次的著作物の著作権が生ずる部分
三 連載漫画において登場人物が最初に掲載された漫画の著作権の保護期間が満了した後に当該登場人物について著作権を主張することの可否
四 著作権法21条の複製権を時効取得する要件としての権利行使の態様とその立証責任
五 上告審における被上告人の新たな主張が民訴法420条1項8号に照らし許されるものとされた事例
 最判一小平成9年07月17日 民集 第51巻6号2714頁 平成4(オ)1443 著作権侵害差止等

裁判所の認定

第一回作品

被上告人B1(以下「被上告人B1」という。)と同名のアメリカ合衆国の法人である訴外B1(以下「旧B1」という。)は、アメリカ合衆国において、その社員をして職務上創作させたポパイ等の登場人物を有する一話完結形式の漫画である「シンブル・シアター」を、昭和4年(1929年)1月17日から新聞、単行本に逐次連載ないし掲載しました。

このうち最初に公表された作品である、同日のニューヨーク・イブニング・ジャーナルに掲載された漫画を「第一回作品」といいます。

原審の前記認定事実によれば、第一回作品においては、その第三コマないし第五コマに主人公ポパイが、水兵帽をかぶり、水兵服を着、口にパイプをくわえ、腕にはいかりを描いた姿の船乗りとして描かれています。

本件図柄一

上告人は、昭和57年5月から別紙一記載の図柄(以下「本件図柄一」という。)を付したネクタイを販売しています。

本件図柄一は、水兵帽をかぶり、水兵服を着、口にパイプをくわえた船乗りが右腕に力こぶを作っている立ち姿を描いた絵の上下に「POPEYE」「ポパイ」の語を付した図柄です。

本件漫画

旧B1及び被上告人B1がその社員に職務上創作させたポパイを登場人物とする一連の漫画を総称して「本件漫画」といいます。。

裁判所の判断

一 一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。

 キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないからである。

二 二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作物部分のみについて生じ、原著作物と共通し、その実質を同じくする部分には生じない。

 二次的著作物が原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるのは、原著作物に新たな創作的要素が付与されているためであって(同法2条1項11号参照)、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分は、何ら新たな創作的要素を含むものではなく、別個の著作物として保護すべき理由がないからである。

三 著作権の保護期間は、各著作物ごとにそれぞれ独立して進行するものではあるが、後続の漫画に登場する人物が、先行する漫画に登場する人物と同一と認められる限り、当該登場人物については、最初に掲載された漫画の著作権の保護期間によるべきものであって、その保護期間が満了して著作権が消滅した場合には、後続の漫画の著作権の保護期間がいまだ満了していないとしても、もはや著作権を主張することができないものといわざるを得ない。

 前記の原審認定事実によれば、本件図柄一は、第一回作品において表現されているポパイの絵の特徴をすべて具備するというに尽き、それ以外の創作的表現を何ら有しないものであって、仮に後続作品のうちいまだ著作権の保護期間の満了していないものがあるとしても、後続作品の著作権を侵害するものとはいえないから、被上告人B1は、もはや上告人の本件図柄一の使用を差し止めることは許されないというべきである。

四 著作権法21条の複製権を時効取得する要件としての継続的な行使があるというためには、著作物の全部又は一部につき外形的に著作権者と同様に複製権を独占的、排他的に行使する状態が継続されていることを要し、そのことについては取得時効の成立を主張する者が立証責任を負う。

 著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうところ(最高裁昭和五〇年(オ)第三二四号同五三年九月七日第一小法廷判決・民集三二巻六号一一四五頁参照)、複製というためには、第三者の作品が漫画の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部まで一致することを要するものではなく、その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りるというべきである。

五 被上告人の平成5年法律第47号による改正前の不正競争防止法(昭和9年法律第14号)1条1項1号に基づく差止請求に対して、上告人が商標権の行使を理由として同法6条の抗弁を主張している場合において、事実審の口頭弁論終結後に当該商標権につき商標登録を無効とする審決が確定したときは、民訴法420条1項8号に照らし、被上告人は上告審でこれを主張することができる。

 右は民訴法420条1項8号所定の再審事由に該当するものであって、右被上告人らの前記主張は当裁判所においてこれを考慮すべきものであるところ、これによれば本件商標権は初めから存在しなかったものとみなされるから、上告人の前記抗弁がその前提を欠くものとして失当であることは明らかである。

結論

以上によれば、被上告人B1の上告人に対する本件請求のうち、本件図柄一を付したネクタイの販売の差止め及び上告人の所有するネクタイからの同図柄の抹消を求める部分については、原判決を破棄し、第一審判決を取り消して、右部分に関する同被上告人の請求を棄却すべきであり、上告人の同被上告人に対するその余の上告及びその余の被上告人らに対する上告は棄却すべきである。

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